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目次
【事故の程度】
死亡
【発生場所】
手術室
【関連診療科】
呼吸器外科
【患者】
入院 1人 60歳代 (女性)
【疾患名】
右上葉肺癌
【当事者】
- 医師(15年0ヶ月)
【実施した医療行為の目的】
右上葉原発性肺癌に対して、切除を目的とした。
【事故の内容】
右上葉原発性肺癌疑いの診断にて、全身麻酔および硬膜外麻酔下に胸腔鏡下右肺上葉切除術を予定した患者に対し、術中右肺上葉を切離する過程で、執刀医が右肺動脈上幹を血管周囲組織と認識して、肺動脈上幹の切離には通常用いないエネルギーデバイス(リガシュア)で切離し、血管損傷を起こし大出血を来した。即座に開胸を行って止血を試みたが、出血の速度が早く出血性ショックに至った。PCPS導入を選択し左下半側臥位のまま送血・脱血カニューレを挿入したが、右大腿動脈から送血カニューレを挿入する際に血管損傷を来しPCPS施行が困難となった。脱血カニューレを利用して大量輸血・輸液を行いつつ、胸腔内・後腹膜の止血操作などの蘇生処置を4時間以上行ったが蘇生できず死亡に至った。
【事故の背景要因の概要】
手術には予想出血量に見合う血液準備・輸血体制を整えて臨むのが原則であるが、予見できない危機的出血は常に発生しうる。院内に危機的出血に対するマニュアルが作成されていなかった。今回の手術で、A4+5の肺動脈分岐からの出血により術野全体がやや赤く見えていて、視野が悪い印象があった。また出血が剥離面に付着したまま次の操作に移っていた。結果的に再度大きな肺動脈からの出血につながったが、術野を整えてできるだけ見やすく、慎重な操作を行うなど改善の余地があった。右上葉を切離する過程で、右上葉を背側に牽引した状態でやや扁平になった肺動脈上幹(A1+3)を血管周囲組織と誤認して肺動脈上幹の切離に用いないエネルギーデバイス(リガシュア)で切離し、血管損傷を起こし大出血に至った。見上げ式の胸腔鏡カメラの視野から血管全体がやや見えにくく、また血管周囲組織と思い込んでいたことより、出血が起きた時点ではどの血管を損傷したか(肺動脈上幹自体とは)認識できなかった。
【改善策】
- 呼吸器外科の手術は、致死的な出血が起こり得る。術前の説明の中で、危険性や手術適応について、丁寧に説明し同意を得る必要がある。
- 肺血管処理を伴う肺切除術に際し、肺動脈損傷時には出血のコントロールを優先することを原則とする。PCPSは、一時的な出血のコントロールが得られた後で、片側肺での換気・循環を行っても脳循環が維持できない時に試みる手段と位置付ける。
- 胸腔鏡下肺切除術に際し、良好な視野の下に、より丁寧で慎重な手術操作を心がけるようにする。
- 病院の体制について
・施設にあった危機的出血に対するガイドラインを作成し、急変時の対応トレーニングを行うことを推奨する。
・致命的なイベントが患者に起きた際の、家族への対応マニュアルの整備を推奨する。