バイデン氏、残した貧困4000万人 大統領選に格差が影

米大統領選20242024年10月22日 5:00 (2024年10月22日 19:11更新) [会員限定記事]

バイデン政権は格差是正を最優先として発足した=ロイター

【ワシントン=高見浩輔】バイデン米政権は11月5日の大統領選後、政権移行期に入る。先進国のなかで「1強」と呼ばれる経済成長を実現したが、就任時に最優先とした格差是正は道半ばだ。「ローン危機」に直面する低所得層の困窮は、民主党の候補を引き継いだハリス副大統領の選挙戦にも影を落とす。

バイデン政権は「ボトムアップとミドルアウト(低所得層と中間層の底上げ)」をスローガンとして発足した。富裕層への増税と低所得層への手厚い支援を約束。減税などの恩恵が高所得層や大企業からいずれ国民全体に行き渡るという「トリクルダウン理論」の否定が出発点となった。

高所得層が支えた「1強」経済

「世界で最も強い経済成長を実現した」。3%前後の高い成長率を維持する米経済をバイデン氏はこう誇る。だが米連邦準備理事会(FRB)のエコノミストが11日に公表した論考は不都合な事実を浮かび上がらせた。

富裕層への増税は法人税率の引き上げと並んでバイデン政権が実現できなかった「公約違反」だ。ところが景気後退入りが予想されていた米経済を支えてきたのは、皮肉にもその高所得層の消費だったという。

民間企業が蓄積する消費データを解析したところ、新型コロナウイルス禍後は世帯収入の違いで消費に変化があった。物価動向を差し引いたベースでみると、所得によって二極化が起きていた。

年間収入が10万ドル(約1500万円)以上の世帯は2018年1月からの消費の伸びが16.7%に達した一方、6万ドル以下の低所得層は7.9%にとどまった。米国勢調査局によると、米家計の所得の中央値は23年で8万ドル。特にバイデン政権が誕生してから23年半ばまでの2年間、低所得層の支出は減少を続けていた。

低所得層はコロナ禍で政府から受け取った現金給付を早々に使い果たした一方、高所得層は不動産価格や株価の上昇といった恩恵を強く受けた。

米S&P500種株価指数は就任時から1.5倍になった。全米住宅価格を反映するS&Pコアロジック・ケース・シラー指数は7月までに34%上昇した。マイホームを持つアメリカン・ドリームを実現できる家庭はますます絞られている。

減らない貧困層、迫るローン危機

米国勢調査局が9月に公表した23年の貧困率も厳しい現実を突きつける。実態に即した貧困率を示すとされる「補足的貧困指標(SPM)」でみると、全体の12.9%にあたる4284万人が貧困状態だった。これは6年ぶりの高水準だ。

貧困率は税引き前の所得が、必要な栄養を確保できる最低食費の3倍を下回るかどうかを基準として算出する。SPMはこれに加え、政府による低所得層向けの支援策の効果を考慮する。家族構成や消費の内訳の変化も加味する。

コロナ禍を受けて21年3月に成立した米国救済法(レスキュープラン)では児童税額控除の支給要件が大幅に緩和された。これが同年末に期限切れとなり、急低下していたSPMの貧困率が再び戻った。歴史的にみれば水準は低いが、政権が最優先課題とした格差是正が十分に進んだとは言い難い。

足元ではクレジットカードや自動車ローンを支払えない家庭が増えている。ニューヨーク連銀の9月の調査では「今後3カ月で最低限の債務返済ができなくなる可能性」の平均値が14.2%に跳ね上がった。40〜50代、高卒以下の学歴の人で伸びが際立つ。

政策実現阻んだ議会の壁、再び?

バイデン政権の政策を阻んだのは米連邦議会の壁だ。富裕層増税や法人税の引き上げ、低所得層の支援策を盛り込んで「ビルド・バック・ベター(より良い再建)」と名付けた大型歳出・歳入法案は21年末に頓挫した。

22年に規模を縮小して成立したインフレ抑制法では、格差是正策の多くが除外された。中間選挙を経た後は共和党が下院の過半を握る「ねじれ議会」になり、政権の独自色の強い政策はますます成立しにくくなった。

22年に成立したCHIPS・科学法など、共和党も賛同しやすい産業支援策では、米国に投資を呼び込む流れを生み出した。コロナ禍の混乱期からの正常化という点でも成果はあった。

失業率が9月も4.1%と歴史的にみて低い水準にとどまるなか、22年に一時9%を超えた消費者物価上昇率は今年9月には2.4%にまで低下した。米経済は軟着陸(ソフトランディング)の軌道にある。

ただ経済指標で好調に映る経済の内側にはゆがみが残ったままだ。ハリス氏は公約で児童税額控除の拡大など中間層重視を前面に掲げるが、前回の大統領選でバイデン氏が主張した政策を実現できなかった重荷を負う。民主の岩盤だった黒人やヒスパニックで比較的所得の低い層の支持離れが指摘される。

米リアル・クリア・ポリティクスの集計では、11月の選挙で上院の100議席のうち53議席で共和が優勢となっている。ハリス氏が仮に政権をとったとしても、再びねじれ議会となり、バイデン政権と同じ困難に直面する可能性がある。

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  • 小野亮のアバター小野亮みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部 プリンシパルコメントメニュー
    ひとこと解説ABCニュース/イプソスが行った世論調査(10/11発表)によれば、民主党有権者の63%が、「ハリス候補には(バイデン大統領とは異なる)新たな方向に進んで欲しい」と望んでいる。「新たな方向」が何を指すのか明らかではないが、格差問題等を背景とした強い閉塞感の表れと考えられ、バイデン政権が残した「負の遺産」がハリス候補に重くのしかかっている。10月中旬以降、激戦州のうちペンシルバニアとアリゾナを除く5つの州でハリス候補は支持率を落とし始めてもおり、トランプ2.0の現実味が増している。2024年10月22日 7:11
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