胸腺上皮性腫瘍は、縦隔内の他の腫瘍(悪性リンパ腫や胚細胞腫瘍など)と鑑別する必要がありますが、免疫染色によるマーカーの使用が重要です。具体的には、TdTやCD1aが未熟Tリンパ球の検出に、p63やサイトケラチン(AE1/AE3, CK5/6)が胸腺上皮細胞の同定に活用されます
目次
TdT(Terminal deoxynucleotidyl transferase)(+) のリンパ球とは?
TdT(Terminal deoxynucleotidyl transferase, 末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ) は、リンパ球の前駆細胞(特にT細胞・B細胞の未熟段階)に特異的に発現するDNAポリメラーゼ です。
TdT(+)のリンパ球 とは、未熟なリンパ球(前駆B細胞、前駆T細胞) を指し、急性リンパ芽球性白血病(ALL)などの病理診断で重要なマーカー となります。
1. TdTとは?
- DNAポリメラーゼの一種であり、T細胞やB細胞の遺伝子再構成(VDJ再構成)時にランダムな塩基を付加する酵素。
- 主に骨髄や胸腺で発現し、未熟なリンパ球のマーカーとして用いられる。
- 成熟リンパ球(末梢血のT細胞やB細胞)ではTdTは陰性(TdT−)。
2. TdT(+)のリンパ球の種類
TdT(+)のリンパ球は、未熟なリンパ球前駆細胞であり、主に以下のものが該当する。
① 前駆T細胞(Pro-T, Pre-T)
- 発生場所:胸腺
- マーカー:TdT(+), CD34(+), CD1a(+), CD2(+), CD3(細胞質), CD7(+)
- TCR遺伝子の再構成が進行中
- 急性T細胞性リンパ芽球性白血病(T-ALL)でTdT(+)がみられる
② 前駆B細胞(Pro-B, Pre-B)
- 発生場所:骨髄
- マーカー:TdT(+), CD34(+), CD10(+), CD19(+), PAX5(+), IgM(細胞質)
- BCR(免疫グロブリン遺伝子)のVDJ再構成が進行中
- 急性B細胞性リンパ芽球性白血病(B-ALL)でTdT(+)がみられる
3. TdT(+)の疾患(臨床的意義)
TdT(+)が診断に重要な疾患は以下の通り。
① 急性リンパ芽球性白血病(ALL)
- B-ALL(前駆B細胞性ALL) → TdT(+) & CD10(+)(CALLA陽性)
- T-ALL(前駆T細胞性ALL) → TdT(+) & CD1a(+)(胸腺由来)
② 混合表現型急性白血病(MPAL, Mixed Phenotype Acute Leukemia)
- B/Tの両方のマーカーを持つ未分化な白血病細胞でTdT(+)
- 骨髄系マーカー(CD33, MPO)も共発現することがある
③ 胸腺腫やTリンパ芽球性リンパ腫
- 胸腺の未熟T細胞に由来する腫瘍でTdT(+)
- 前駆T細胞の腫瘍であるため、ALLと鑑別が必要
4. まとめ
| 項目 | TdT(+)の特徴 |
|---|---|
| 発現細胞 | 未熟T細胞(前駆T細胞), 未熟B細胞(前駆B細胞) |
| 発現場所 | 胸腺(T細胞)・骨髄(B細胞) |
| 正常組織での発現 | リンパ球の発生初期に一過性に発現 |
| 病理診断での意義 | ALL(B-ALL, T-ALL), MPAL, 胸腺腫瘍などの診断に有用 |
結論
- TdT(+)は未熟なリンパ球前駆細胞(前駆T細胞・前駆B細胞)のマーカーであり、成熟リンパ球ではTdT(−)。
- 急性リンパ芽球性白血病(ALL)の診断に極めて重要なマーカー。
- 胸腺腫瘍や混合表現型急性白血病(MPAL)などの特殊な疾患でも陽性になりうる。