以前は、記録を書くことに心から意味を感じられていなかった。
引き継ぎの必要がある時や制度的に必要な場合はちゃんと書いていたが、それ以外では淡々と記録を残す程度だった。
そんな自分の意識を変えるきっかけになったのは、尊敬していた先生の記録をめぐる出来事だった。
ある日、異動でやってきた新任の先生が、記録を見ながらつぶやいた。
「この先生、なんなんですか。正直、かなりいい加減な印象を受けますね…」
その記録を書いていたのは、自分がずっと「偉大だ」と思っていた先生だった。
間違いなく誠実で、知識も技術も信頼できる医師。ただ、記録だけは──正直、雑だった。
その時はっとした。
記録が、その人の医療の価値を損なってしまうことがあるんだと。
どれだけ中身が素晴らしくても、他人には記録でしか判断されないこともある。
それ以来、「自分が提供した医療の価値を、自分の手で守るために」記録を書く、という意識が芽生えた。
もはや、誰かのためというより、自分のために記録を書くようになった。