はじめに

トランプの経済戦略をめぐっては、「ドル覇権に対する挑戦である」といった表面的な議論が飛び交っている。しかし、本稿では、短期的にはそう見えるこの政策群が、むしろドル覇権を維持・再構築するための構造的な改革であるという視点から再評価を試みる。

キーワードは「Gen2的過剰構造へのGen3的是正」。つまり、制度疲弊を迎えた既存構造(Gen2)に対し、トランプは構造の問い直し=Gen3的アプローチで臨んでいるという視点である。

Gen構造とは何か?

本稿で用いる「Gen1」「Gen2」「Gen3」という分類は、単なる年齢や時代ではなく、「構造との関係性・態度・思考様式」を指す言語的枠組みである。

  • Gen1(創造層):制度や構造をゼロから設計・創出する人々。戦後の国家設計や企業創業などが該当。
  • Gen2(運用層):既存構造を安定的に維持・拡張する人々。官僚、管理者、制度信奉者が代表例。
  • Gen3(再構築層):既存構造の前提に疑問を差し込み、問い直し、新たな構造を再設計しようとする人々。

この視座を通して、トランプを「Gen3的ドル再構築者」として理解することが本稿の目的である。


1. ドル還流システムという“魔法の機械”

米国が長年維持してきた経済モデルは、以下のスキームに要約される:

  • 米国はドルを発行し、それで海外から物品を購入する(例:日本製自動車)
  • 輸出国は得たドルで米国債を購入し、米国に資金が還流する
  • 米国はその資金をもとに再び支出を続けることが可能となる

この構造は、ドルが国際的な基軸通貨であることを前提としており、ドルでモノが買える・ドルを信頼してもらえる世界が不可欠である。

そのため、ドルの信認を脅かす存在には軍事的・制度的圧力が加えられてきた。特に石油が「ドルでしか買えない」状態を維持することは、ドル覇権維持の要であった。


2. 成熟しすぎた構造の副作用——生産しない帝国

しかし、この構造には副作用がある。ドルの印刷によって支出可能な米国は、やがて以下のような構造疲弊に陥る:

  • 国民が生産活動に従事しなくなり、消費ばかりが増加する
  • 生産力の低下により、国内供給力が減少
  • その結果、需要>供給となり、インフレ圧力が高まる

これは、過剰なGen2構造(維持のための構造)が自己崩壊を始めた兆候である。


3. トランプは何をしようとしているのか?

このような状況下で登場したトランプは、「米国庶民の代表」として、構造の問い直しを開始した。その中核には以下の3つがある:

  1. 自由貿易体制の見直し
  • 「自由貿易」はグローバルなドル還流構造を維持するための方便だった
  • 現在の米国はかつてのように“勝てる”自由貿易のフェーズではない
  • したがって「保護主義」はドル覇権の破壊ではなく、ドル構造の再構成である
  1. 国内生産力の回復
  • 米国民を再び働かせ、生産力を再構築しようとする試み(「米国に工場を」)
  • 関税導入もこの流れの一環である
  1. 小さな政府・財政再建
  • 国債発行による放漫財政からの脱却
  • 金利の市場回帰、財政規律の再確立

4. なぜ“マーケット”はトランプを誤解するのか?

トランプの戦略は、マーケットにとっては「ドル安要因」と映る。しかしそれは短期的視点であり、構造の再設計によって長期的にはドルの価値を維持する試みと見ることができる。

主流派経済学や市場参加者は以下のような前提に依拠している:

  1. 市場参加者は合理的経済人である(→現実とはズレ)
  2. 米国が恒常的に高い生産力を持つ(→現状では非現実)
  3. 完全に自由な市場とそれを支える制度が存在する(→幻想)

トランプのアプローチは、これらの前提に対する現実的かつ構造的な修正提案であり、むしろドル覇権の“延命策”であると理解すべきだ。


5. 中国との比較——経済フェーズの違い

興味深いのは、トランプが提唱する戦略がかつての中国と類似している点である。中国は1990年代から2010年代にかけて、内需拡大と生産強化を中心に発展してきた。今、米国がそれを模倣しようとしている。

  • 中国:過剰生産→外向きの領土戦略
  • 米国:生産不足→内向きの産業回帰

構造的には、両国は異なるフェーズを循環的に経験していると言える。


結論:トランプはGen3的“ドル構造の再設計者”である

トランプの言動を「ドル覇権への挑戦」と見なすのは短絡的である。むしろ、Gen2的制度疲弊に直面する中で、ドル構造そのものを問い直し、再設計しようとするGen3的行動と捉えるべきだ。

その意味で、トランプの戦略は「未来を起点に今を考える」という、極めて構造的な発想に基づいている。

ドル覇権の危機は、何もしないことで加速する。行き過ぎた制度の尻拭いをする“構造批判的保守”としてのトランプという位置づけこそ、今もっとも正確な理解だろう。

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